「言葉の仕事」の楽しさ、そして・・・。
日本語版ディレクター
日下尚子さん
●日本語版との出会い
今から十数年前、いわゆるOLをしながら翻訳か原稿を書く仕事がしたいという漠然とした気持ちでいた
時に、偶然この仕事と出会いました。最近のように自分のしたいことを意識し、就職活動でも上手にプレ
ゼンできる方たちと比べたら、何て稚拙で頼りなかったことかと思います。普段、海外の映画やドキュメ
ンタリーを見ることがあっても、そこに外国番組の日本語版を作る人が介在しているとは、思いも及ばな
いような自分でした。でも、それからいつのまにか、居心地の良さに十数年が経ってしまいました。
「言葉」が好きな人にとって、この仕事は、言葉のシャワーを浴びている気分に浸れる場所です。私は、
海外のドキュメンタリーの日本語版台本を書くという仕事を中心にやってきました。政治、経済、歴史、
科学、芸術、娯楽、どのような内容が来るか分かりません。毎回緊張し、一からのスタートだと感じます
。でも完成し終えたときには、必ず何かひとつかみの収穫を得たと感じます。担当作品から得た知識をみ
な吸収していたら、今ごろは博士級になっているはずでしたが、哀しいかな、それは実現せず、細かい知
識は全て風に飛んでしまいました。今はただ、新鮮な驚きの記憶だけが残るばかりですが…。
●この仕事はチームワーク
人生最初の台本の書き出しはたしか、「ローマは泉の街です」という短い文句でした。気恥ずかしい気
持ちで、今も時々思い出します。自分の文章が声優さんの声に乗り、映像や音楽と合わさり、番組になっ
ていくときには、チームワークによる創造の楽しさを味わうことができます。文章を書くというと個人の
仕事と思われがちですが、おそらくこの仕事は、チームワークが好きな人に合うのではないかと思います
。そしてまた、先輩や現場の人たちから教わることがとても多いのです。もし先輩と呼べる人が一人もい
なかったら、この仕事を続けることはできなかったでしょう。仕事場では先輩も新人も独立して1つの番
組を担当し、教えるとか従うといった関係にはありませんが、先輩のすばらしい作品を垣間見て学ぶこと
ほど良い刺激はありませんでした。そのような意味で、私は恵まれていたと思います…。
●「1分」に「1時間」の人生
ところで、外国のドキュメンタリーの日本語版を作る際、ナレーションやセリフを書くのにどれくらい
時間をかけていると思いますか?もちろん内容にもよりますが、実はたった1分のナレーションを書くの
に、腕組みしながら1時間かけることもあるんです(この際、私の力量が足らないのは置いといて…)。
番組で流れる時間はたった1分、そこに私の人生の1時間が全力投入されています。もしよかったら、今
度そういう番組をご覧になったときは、縁の下の私たちが行っている、言葉探しの“呻吟”みたいなもの
を、感じ取ってみてください。
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